今回は、投資をはじめたときに、(特に投資を始めたときに)出てくる、為替リスクに関する考察です。
この記事は以下のような人に読んでもらうことを勧めています。
- 米国株投資をはじめようとしたけれど、どのタイミングでドル転すればいいかわからない。
- 投資信託とドル建てETF、どちらで投資すべきか悩んでいる
- 米国個別株やETFを買う時の為替リスクについて知りたい
為替相場は、基本的にはレンジ相場
まず、為替リスクというものを概念的に理解するために、ここ10年の為替相場を見てみましょう。
ドル円については、基本はレンジ相場と言われています。だいたい80円~120円くらいを行き来するのがドル円の特徴ですね。特に2017年以降は105円~115円と、きわめて落ち着いたドル円相場になっています。
為替の予想というのは極めて難しいので、ここでは多くを語りませんが、為替が円安に振れると、円ベースでの資産は増え、円高になると、円ベースでの資産は減ります。ここではまず、為替は変動する、ということを学びましょう。
ちなみに過去を見ると、1ドル=360円の時代もあったわけです。そういう意味でも、やはり、今は相場としては非常に落ち着いていると言えるでしょう。
円建てとドル建てでは、さほど大きな違いはない?
では、円建てとドル建てでは、どちらの商品を選ぶべきなのでしょうか。こちら実は、為替リスクと言う意味では、大きな違いはありません。
理由はシンプルで、「円建ての場合は、買い付けのタイミングと同時に、円→ドルへの転換を、投資信託/ETF上でやってくれるから」です。単純に手間を掛けるか掛けないかの違いになります。よって、リスク資産を買うタイミングで為替交換をするということに限れば、実は、円建てでもドル建てでも、ほぼ同じなのです。
それでもなお、ドル建て資産を持つべき理由とは?
一方で、ドルで行うメリットもあります。投資信託/ETFの買い付けと違うタイミングでドル転できる、ということです。
シンプルなケーススタディをしましょう。毎月20日にリスク資産を10万円分買うというシミュレーションです。為替が以下のように動いています。ドル建ての場合は、1ドル90円のタイミングで、ドル転できたとします。1日に1ドル100円だったものが10日に90円、20日に110円になったとすると、ドル建てのほうが202ドル分、資産を多く持てるという計算になります。
日時 | 為替 | ドル建て | 円建て | 差分 |
1日 | 100 | 10万円 | 10万円 | 0 |
10日 | 90 | 1111ドル | 10万円 | 0 |
20日 | 110 | 1111ドル | 909ドル | 202ドル |
もちろんいいケースだけではありません。仮に10日からさらに円高が進むと、20日時点では逆に139ドルの赤字になることになります。(下記がシミュレーションです。)
日時 | 為替 | ドル建て | 円建て | 差分 |
1日 | 100 | 10万円 | 10万円 | 0 |
10日 | 90 | 1111ドル | 10万円 | 0 |
20日 | 80 | 1111ドル | 1250ドル | 139ドル |
ドル円については、完全ランダムウォークである以上、上記のようなタイミングでのドル転はすべきではない、という声もあります。それについても一理ある、と思いますが、私は、円とドルについては、ある程度割合を決めて、リバランス(=安いときに買い、高いときに売る)べきだと考えています。
為替リスクを根底から考える
ここでもう1段階、「そもそも為替リスク」ってなんだっけ?っていう話をしましょう。なぜ為替リスクというかというと、「ドルが円に対して値段が変わる」この振れ幅を為替リスクといいます。このリスクをなくすには、円100%で通貨を保有するしかありません。では、それは本当にリスクヘッジの姿勢として正しいのでしょうか(いったん米国株のほうがリターンが高かった、とかいうことはすべて無視します。)
これについては、通貨の本質的な性質を理解することが重要だと考えます。我々は日本円で生活していますのでドルが上がった、下がったの話をしがちですが、実は変動しているのは日本円のほうかもしれません。
通貨というのは各国の相対的な力量差によって上下に変動します。そして、どの国の通貨が一番強いか、それはアメリカ(ドル)です。世界の多くの国の通貨がドルベッグ制をとっていることや、何より流通量の多さが、基軸通貨としての信頼度の高さを表しています。ちなみに、日本の貿易においても、輸出は約50%がドル、輸入にいたっては65%がドル建てで行われています。
我々は生活の大部分を輸入品に頼っています(間接的に見れば電気も輸入品です。)そういう意味では、我々の生活は、ドルの値動きで大きくコストが変わってくるのです。(高級ブランド品が為替の影響で価格改定するというのは、よくある話です。)
つまり、ドルを持つことがリスクなのではなく、むしろ、円100%でいることのほうがリスクなのです。本来、為替リスクを分散するのであれば、様々な通貨を持つことが、リスクヘッジにつながるのです。個別株だとみんなできているリスクヘッジが、通貨の話になるととたんにできなくなる、ということがよくあるのです。
さらに、個別株において、それぞれの資産額を把握し、PFを持つことがリスクを減らすことにつながるのと同様に、為替においても、それぞれの資金量を把握し、PFを組むことが重要だと思っています。なので、私は、ドル建ての資産はドル建てで持つ、ことを基本と考えています。
まとめ:為替リスクの本質を知り、適切な資金管理をしよう
今回のまとめです。
- ドル円は長いレンジ相場。特に近年は為替安定。
- ドル建てであろうと円建てであろうと、その場で投資する限り取る為替リスクは同じ。
- ドル建てはリスク資産を買うタイミングと為替交換をするタイミングを分けることができる。
- 円100%というのは、為替リスクがないように見えて、世界的に見ると為替リスクが高くなる。リスクヘッジのために通貨も分散させるべし。
- 資金管理の点からも、ドル資産はドル建てで持つほうがわかりやすく、お勧めしたい。
為替リスクの本質を知れば、資金管理を行う上で非常に大きなアドバンテージになるでしょう。